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  • 2020.10.09
  • デジタル資産・デジタル遺産の相続について【専門家が徹底解説】

デジタル資産

 

近年、デジタル資産の相続という問題が、少しずつ取り上げられるようになってきました。
2008年のiPhone3G販売以降、スマートフォンが普及し、
インターネット環境が持ち運べる時代となりました。

 

SNSやネット証券・ネット銀行、暗号資産といったものを
スマートフォンで管理できるようになり、
インターネット上で資産を管理することも当たり前になってきました。

 

そこで気になってくるのが、
「管理者が亡くなった際、デジタル資産はどうなってしまうのか?」という点です。

 

デジタル資産は数十年の歴史しかないため、相続が発生する例がまだ多くありません。
平均寿命に差し掛かる年配の方はデジタル資産を扱っておらず、
若い世代は相続の発生自体が少ないため、
デジタル資産に詳しい相続の専門家も増えていないのが現状です。

 

しかし、若い世代で9割強、60代でも7割がスマホユーザーである現代で、
今後デジタル資産の問題は確実に増加していきます。

 

そこで、この記事ではデジタル資産の特徴と相続に関する準備についてご紹介いたします。
もしもの時に備えて、今のうちから対策をしておくことをおすすめします。

 

1.デジタル資産にはどのような種類があるか?

 

デジタル資産とは、『インターネット上で管理される資産(お金になるもの)』(※1)と考えてよいと思います。

これらが、相続により遺産として取り扱われる場合に、
「デジタル遺産」と定義することもあるようです。

この記事では、一貫して「デジタル資産」として記載いたします。

 

典型的なものとして、デジタル資産は以下のようなものが考えられるでしょう。
現金化できるデータで、IDやパスワードなどの
『本人認証』によって管理されています。

 

・ネット銀行の預金データ
・ネット証券の投資信託・株等のデータ
・暗号資産(仮想通貨)
・クラウドソーシングやアフィリエイト報酬

 

また、少額なものとしては、以下のようなものも挙げられそうです。
・プリペイド式電子マネー(Suica・nanaco・WAONなど)
・マイルやポイント

 

これらはペーパーレス化が進んだことで
金融資産関連の申込や取引記録などが
ほぼ全てネット上で完結してしまいます。

 

そのため本人がデジタル資産の有無を明示し、
ID・パスワードを残しておかないと
誰にも気づかれないまま死後放置されることになりかねません。(※2)

 

※1
近年、デジタルアートや、特定のツイッター等にNFT(Non-Fungible Token(非代替性トークン))という
識別情報が施され、コピーできない唯一の独立した芸術作品等として取り扱われるケースがあります。
かなり高額で取引されるものもあります。

 

この場合は、必ずしもインターネット上に存在しなくとも、
現物の美術品などと同様に特定の資産価値が認められるとも言えます。

 

※2
スマートフォンやパソコン内部のデータは専門業者に依頼することで取り出せる場合があります。
依頼費用は高額になりますが、どうしても取り出せない場合は最終手段として検討しましょう。

 

2.デジタル資産ならではの問題

 

デジタル資産とそれ以外を比較したとき、そ
の違いは、気づきやすいか、そうでないかという点に尽きるものと思います。

 

従来の資産については、預金通帳、土地建物の権利証、証券会社からの手紙、
督促書といったような現物の手がかりから遺産や負債を推し量ることができます。

 

一方、故人のデジタル資産の有無を調べるには、
スマートフォンやパソコン上で管理されるデータから、
その端緒を探っていくより方法がありません。

 

万が一スマートフォンやパソコンが処分されてしまうと
捜索自体が困難になる恐れもあります。

 

そこが、デジタル資産を「気づきにくいもの」にしている主な原因であると思われます。

 

もう1つの問題は、デジタル資産に知見のある専門家が少ないことです。
正直に申し上げて、我々相続の専門家であっても、このジャンルはわからないことが多いのが本音です。

 

私も、記事を書く段階で相当調査しましたが、モヤモヤするところが多かったように思えます。
他の相続関連の記事のように、明快に書いていくことができませんでした。

 

理由は、主に2つあるように思えます。

 

第一に、先述のように、歴史が浅いという点です。
取り扱いの蓄積が少なく、憶測の範囲を出ない部分もあります。
また、関連書籍もそこまで多くはないため、知識を得るのも難しいのが現状です。

 

第二に、デジタル資産の在り方が多岐に渡り、
すべてを横断的に理解することが難しいという点があります。

 

たとえば、単に預金や証券だけにとどまらず、
暗号資産やクラウドソーシング等の報酬まで含めていくと、
これらの取り扱いに関する、かなり幅広い知識と経験が要求されます。

 

また、現実の機器(スマートフォンやパソコン)から、
いかにしてデータを抽出するかといった技術的な質問については、正直言ってお手上げといえます。

 

これらが、デジタル資産ならではの問題であるように感じるところです。

 

3.デジタル資産の相続に向けて

 

デジタル資産の手がかりを管理表にまとめておく

 

もしもの時に備えて、
現在所有しているデジタル資産を
管理表でまとめておきましょう。

 

パソコンやスマホだけでなくノートなどのオフラインの媒体にも
記録しておくことが肝要です。

 

当たり前すぎることですが、これにつきます。

 

Excelやエンディングノート(※3)に、以下のような情報をまとめておきます。

・所有しているデジタル資産(サービス名)
・ID
・パスワード
・スマートフォンの端末ロック開錠パスワード

 

書いたものは紙に印刷しておいて、家族が気付きそうな特定の場所に保管します。
IDやパスワードは数字や英数字で記録されますので
判別しにくい文字については「I(大文字のアイ)とl(小文字のエル)」と
補足を入れておくとトラブルを回避できます。

 

家族には、事前に、それとなく伝えておくのも重要です。

 

最近は、スマートフォンで一括管理するケースが多いと思われます。
スマートフォンの端末ロックを開錠するパスワードは、とても重要です。
数回入力を誤ると、データがすべて消えてしまうこともあるからです。

 

写真・動画等のデータ共有

 

話が少し脱線します。
これらは「資産」とはいえませんが、家族や友人にとってはかけがえのないものです。

 

写真など、デジタルデータで資産価値がないもの、
思い出の品のようなものを「デジタル遺品」などと呼称したりすることもあるようです。

 

デジタル形式の「形見」ということでしょうか。

 

これらは、スマートフォン等から定期的に
外付けハードディスク等に保管し、管理するようにしましょう。

 

クラウド上でもよいかと思いますが、
家族や友人と共有できていない場合、忘れ去られるリスクはあります。

 

クラウドに関する情報は、上述した管理表に掲載してもよいかと思います。

 

※3エンディングノートとは、自分自身が亡くなった時に備えて、遺族に残すノートのことです。
遺産の一覧や、家族に残したい言葉、遺言書などを、定型のノートに記載して作成します。
大型書店で売られていますし、インターネット検索でもヒットします。

 

クリアファイルに保険証券や不動産登記事項証明書(登記簿謄本)などをまとめて、
わかりやすく整理している方もいらっしゃいます。

 

デジタル「負債」の管理も忘れずに!

 

忘れてはならないのが、
支払い義務のあるネットサービスです。

 

典型的なものは、Amazon PrimeやNetflixなどの有料サービスです。
退会しない限り自動的に引き落とされてしまうので注意が必要です。
とはいえ、カード停止もしくは通帳の凍結によって、支払が止まれば、半ば強制的に終了していきます。

 

月の費用も数千円のものが大半かと思いますので、大きなインパクトはないといえるでしょう。

 

一方、FX取引等のハイリスク・ハイリターンな金融商品については、気になるところです。
FXの場合、放置すると大きなマイナスが生じるのではないかとの懸念もあります。

 

近年、マイナスが下振れしすぎないよう、倍率も下がり、
マイナスが生じたら強制的に決済して終わらせるような仕組みもできています。
マイナスが数百万円にのぼるというようなことも、実際は起きていないようです。

 

デジタル「負債」についても、上記管理表に残しておくことが肝要です。

 

まとめ

デジタル資産の種類とその承継についてご紹介しました。

 

対策があまりにもアナログで拍子抜けしてしまうかもしれません。
ですが、管理表にまとめ、残される家族に資産のありかを伝えていくということは、
現物資産もデジタル資産も非常に重要な対策です。

 

デジタル資産の承継(相続)の取り扱いについては、今まさに試行錯誤の真最中であるといえます。
法整備や各社の取り扱い指針も、今後、少しずつですが固まっていくものと思われます。

 

残される家族が困らないよう、今のうちから対策をしておきましょう。