- 2020.07.25
相続対策として話題の家族信託とは?メリット・デメリットを解説
最近相続対策として注目されているのが「家族信託」です。
家族信託とは、自分の老後や介護などに備え、信頼できる家族に
不動産や預貯金などを託して管理・処分を任せる財産管理のことです。
比較的新しい制度でNHKなどでも紹介されており、
相続対策や認知症対策としても注目されています。
そこでこの記事では家族信託について
メリット・デメリットをご紹介していきます。
目次
家族信託のしくみ
まず、家族信託のしくみを簡単におさらいしましょう。
実際に具体例に落とし込んで考えてみるとわかりやすいので、
別コラムの具体事例をご覧いただくことをお勧めいたします。
また、以下の用語は、コラムを読んでいく前提として、
重要ですので、最初に説明しておきます。
①委託者(財産所有者、財産の管理・処分をお願いする人。)
②受託者(財産管理を行う人)
③受益者(財産管理によって得られた利益を受ける人。)
なぜ家族信託が注目されているのか?
家族信託は信頼できる家族に自分の資産を預け、
財産管理を行う仕組みです。
仮に何も対策しないまま本人が認知症になった場合、
資産を売却することも定期預金を解約することなども
できなくなってしまう可能性があります。
元気なうちに家族信託をしておくことで
委託者が認知症になった場合でも、
受託者は、契約内容に基づく運用管理を継続することができます。
後見制度や遺言書ではできないメリットもある
①本人が元気なうちから、利用できる制度
任意後見という制度があります。
将来、自身の判断能力が低下した際に備えて、事前に後見人となってくれる人を選任し、
その者と契約し将来の財産管理を委託することで、認知症リスクに備える制度です。
任意後見制度の場合、元気なうちに後見人となってくれる人を選べますが、
制度が機能するのは判断能力が低下した後です。
家族信託は、本人が元気なうちから効力が発生し、運用が開始されます。
しっかりと資産管理・運用ができているか、本人が確認することができますから、
本人の理想通りに運用管理しやすい点が魅力です。
②遺言の代用としても利用できる場合がある
また家族信託は、定め方によって遺言書の代わりとして機能する側面があります。
例えば、資産の運用を委託した人(委託者)が死亡した際に
信託契約が終了すると定めた場合、
信託の対象となる財産(信託財産)の残余財産について
予め帰属先を定めておくことができるのです。
また、資産運用の利益を受ける人(受益者)が死亡した際にも、
受益権の承継者をあらかじめ指定することができます
(通常委託者=受益者となるパターンが一般的です。)。
わざわざ遺言書を作らなくても、実質的に遺言書と同じような効果があります。
家族信託の魅力は、本人が、元気なうちに
運用が開始されるという点にあります。
家族間のトラブルも未然に防げますし、
何より本人の希望に沿って財産を譲ることができるので、
ご家族にとっても本人にとっても嬉しい制度です。
家族信託にはデメリットもあります
もちろんメリットだけではありません。
①受託者をだれにするか。
家族信託の制度を利用する際、第一の問題点として挙がるのが、
「受託者をだれにするか」です。
受託者にはそれなりの負担がかかります。毎年一定時期に確定申告する義務もあります。
家族の中で、受託者を引き受けられる候補者がいなければ、
この制度を利用することはできません。
半面、資産家の場合、ある特定の家族のみが財産管理を一手に受けるということに、
家族間で軋轢が生じてしまうことがあります。
受託者を誰にするかで揉めてしまう可能性があるということです。
また、受託者となる家族に、本当に財産管理を任せられるのか見極める必要もあります。
任せられる家族がいない場合は利用できません。
では、
「相談する弁護士や司法書士に、受託者も任せられないか?」
とよく質問されます。
これは、結論から申し上げますと、できません。
信託を業務として受けるには、信託法に基づいた許可を得る必要があります。
許可を受けた業者のみが、業務として受託者に就任できるのです。
②節税効果はない
原則的に、家族信託に節税効果はありません。
あくまで、民事信託は「特定の財産について、管理処分を任せる制度」でしかありません。
将来の相続を見越して財産管理を特定の家族へ委託するため「相続の対策」にはなっても、
「相続税の対策」にはならないとよく言われています(※)。
家族信託という言葉のイメージで節税効果を期待する声は多いですが、
実際には節税効果はなく、むしろ、費用は増えます。
専門家への相談費用、登記の登録免許税、公証役場へ支払う費用などです。
資産規模によっては、無理に利用しない方が経済的といえます。
先祖代々の資産を守りたいケースや
賃貸不動産を高齢の親が所有しているケースなどで
検討してみると良いかもしれません。
※一部書籍やホームページなどに、賃貸不動産と収益権を切り分けて信託する
(複層型信託)が節税スキームとして利用できるとの見解もありますが、
ここでは割愛いたします。
まとめ
家族信託はまだ始まったばかりの制度です。
信託内容は完全にオーダーメイドになりますから
慎重に設計していく必要があります。
あなたが家族信託に向いているかどうか判断するためにも
専門家に相談してから決めることをおすすめします。
ぜひ元気なうちから相続に強い専門家に相談し、
早めの相続対策を行っていきましょう。
(東京司法書士会所属|登録番号:7237 認定番号:501362)
司法書士。相続案件、会社法務、債務整理、簡裁訴訟代理などを中心とした業務を担当。